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RESEARCH / RTO PRODUCTIVITY

RTOで生産性は上がるのか|4つの成果研究と68社の方針研究

「出社に戻せば生産性が上がる」という結論は、研究の条件を揃えないと導けません。ここでは、勤務日数だけでなく、職種、実験設計、成果指標、企業方針の調査、査読状態を分けて読みます。

RTO REPORT / ANSWER

結論:出社日数ではなく、仕事・設計・測定が結果を分けます。

4つの研究を並べると、ハイブリッド勤務でパフォーマンス評価が悪化しなかった研究、月1回の共同出社でコール数と定着が改善したWorking Paper、完全リモートで生産性が上がったコールセンター研究、在宅勤務の生産性が低下したデータ入力のRCTがあります。

これとは別に、ソフトウェア技術者と支援職を雇用する68社の勤務方針を調べた2026年の査読済み研究は、サンプルの85%が程度の差はあれハイブリッド勤務を許可し、最も多かったのは週3日出社だったと報告しています。ただし、これは方針の実態を扱うマルチケース研究であり、生産性や定着の因果効果を測った研究ではありません。

この違いは「出社が良い」「在宅が良い」の単純な勝敗ではありません。誰が、どの仕事を、どの期間、どの指標で測ったか、また方針を誰から聞いたかが異なるためです。RTOの判断材料にするなら、勤務日数の数字だけでなく、研究条件と限界をセットで確認する必要があります。

比較した成果研究
4本
査読論文1本とNBER Working Paper 3本
方針研究の対象
68社
ソフトウェア関連企業のHR・経営代表者データ

RTO REPORT / COMPARISON

4つの研究を同じ表に並べる

下表は結果の大小を競わせるためではなく、比較可能な範囲と比較できない範囲を見分けるためのものです。NBERの3本はWorking Paperであり、NBER自身が査読前に議論・コメントのために流通させる資料と説明しています。

RTO・在宅勤務を扱う4研究の条件と結果
資料・状態対象と働き方主な結果この表から言えること
Nature 630 (2024)・査読RCT中国の旅行テクノロジー企業の大卒従業員1,612人。週2日在宅・週3日出社と週5日出社を比較離職率4.80%対7.20%、満足度上昇。評価・昇進・コード行数に有意な悪化なし週2日在宅が、この対象と条件で評価を損なわなかった
NBER WP35331 (2026)・Working Paper大規模多国籍企業の顧客対応職248人。完全リモートと月1回の共同出社を比較処置群のコール数/時間が7.8%増、コミュニケーションと定着にも差月1回の対面接点の可能性を示すが、5日出社の効果ではない
NBER WP33851 (2025)・Working Paperトルコの大規模コールセンター。完全リモートへの移行と従業員構成・訓練を分析完全リモート従業員の生産性は10%上昇。対面初期訓練の有無で長期成果と離職が異なる職務と導入方法が完全リモートの結果を左右しうる
NBER WP31515 (2023)・Working Paper/RCTインドのデータ入力部門。自宅勤務とオフィス勤務へ無作為割付在宅群の生産性はオフィス群より18%低下。初日からの差と学習速度の差を確認データ入力の結果を大卒のチーム業務へそのまま移せない

RTO REPORT / POLICY PRACTICE

方針研究:68社では週3日出社が最多でも、唯一の最適解ではない

SmiteらのJournal of Systems and Software掲載研究は、ソフトウェア技術者と支援職を雇用する68の企業・組織について、企業のHRまたは経営側の代表者から勤務場所の規則と過去5年間の変化を集めたマルチケース研究です。成果を無作為に比較する生産性RCTではなく、企業がどのような方針を採用しているかを記述する研究として読みます。

著者公開版の要約では、50%がオフィス中心を優先し、85%が程度の差はあれハイブリッド勤務を許可していました。最も多かったのは週3日出社で、28%が規則を変更し、フルタイム出社へ戻る企業は4社でした。これらはこの68社の構成・時点での結果であり、日本企業全体の比率や、週3日出社が生産性を最大化するという証拠ではありません。

68社の方針研究で報告された内容と、読み替えない範囲
研究で報告されたことこの研究から読み替えないこと
68社の企業・組織のHR/経営代表者から方針を収集従業員全体の生産性・定着を無作為に比較した結果ではない
50%がオフィス中心を優先、85%がハイブリッド勤務を許可日本の企業比率や、すべての職種に当てはまる全国統計ではない
最も多い勤務形態は週3日出社サンプル内の最頻値であり、最適な出社日数を示す因果効果ではない
28%が規則を変更、フルタイム出社へ戻る企業は4社方針が流動的であることは示すが、変更による成果の改善・悪化までは検証していない
資料の状態:最終掲載情報は2026年のJournal of Systems and Software論文として確認し、研究結果の要約と設計は著者公開版(arXiv)も参照しました。arXiv自体は査読前の公開版です。

RTO REPORT / HYBRID

査読済みRCT:週2日在宅は評価を悪化させなかった

Bloom、Han、LiangのNature論文は、Trip.comのAirfare・IT部門にいる大卒従業員1,612人を、週2日在宅・週3日出社の群と週5日出社の群に無作為に割り当てました。ハイブリッド群では離職率が4.80%、対照群では7.20%で、仕事の満足度も高くなりました。

その後の業績評価については、論文が行った同等性検定の範囲で有意な悪化が確認されず、最大2年間の昇進やコンピューターエンジニアのコード行数にも差がないという結果でした。これは「出社は不要」という結論ではなく、特定の大卒・チーム業務・週2日在宅という設計で、出社日数を減らしても評価を損なわない可能性を示します。

比較の注意:この研究の対照群は週5日出社で、完全リモートではありません。週2日在宅の結果を、月1回出社や毎日リモートの制度へ拡張しないでください。

RTO REPORT / MONTHLY

Working Paper:月1回の共同出社は何を変えたか

NBER Working Paper 35331は、大規模多国籍企業の顧客対応職248人を対象に、完全リモートを続ける群と、月1回だけ同じ日にオフィスへ集まる群を無作為に比較した研究です。月1回のオフィス日を設けた群では、介入後のコール数/時間が7.8%増え、訪問後の1週間に同僚とのコミュニケーションが36分増えました。離職も3分の1減ったと報告されています。

この結果は、対面の頻度を低く抑えながら、チームの関係形成やフィードバックを補う設計に関する材料です。ただし、NBERのWorking Paperであり、査読済み論文と同じ確度で扱う資料ではありません。また、顧客対応職の月1回の共同出社を、一般的なRTO命令や週5日出社の効果と読み替えることもできません。

処置
月1回
同じ日にオフィスへ集まる設計
コール数/時間
+7.8%
介入後の処置群についてNBERが報告

RTO REPORT / FULL REMOTE

完全リモートの研究は、職種によって結果が割れる

NBER Working Paper 33851は、トルコの大規模コールセンターで完全リモートへの移行を扱い、完全リモート従業員の生産性が10%上がったと報告しています。背景には通話時間の短縮があり、初期に対面訓練を受けた従業員は、完全リモートに移った後の長期生産性と定着でも異なる結果を示しました。

一方、NBER Working Paper 31515のインドのデータ入力RCTでは、在宅群の生産性がオフィス群より18%低く、差の一部は初日から、残りはオフィスでの学習速度から生じました。在宅を好む人がベースラインでは速く正確だった一方、在宅時の処置効果は一様ではなかった点も報告されています。

完全リモート研究を読むときの分岐
確認点コールセンター研究データ入力RCT
主な成果指標コール数/時間、通話時間、定着入力生産性、初期差、学習速度
仕事の特徴顧客対応と通話処理データ入力と訓練を伴う反復作業
示唆静かな自宅や初期訓練が結果に関係しうる自宅の制約と学習機会が結果に関係しうる

RTO REPORT / HOW TO READ

RTO研究を読むときの4つのルール

勤務日数を先に結論にしない

週2日在宅、月1回出社、完全リモートは別の処置です。出社日数が近くても、同じ日に集まるか、個人が別々に出社するかで設計は変わります。

成果指標を揃える

コール数/時間、業績評価、コード行数、離職率は異なる結果です。定着が改善しても、短期の生産性が上がったことを直接意味しません。

資料の状態を明記する

査読済み論文、Working Paper、企業内分析は同じラベルで扱いません。Working Paperは有用な最新材料ですが、査読前の研究として位置づけます。

自社への外挿を最後にする

職種、チームの相互依存、訓練、通勤、管理職、国・時期が違えば結果も変わりえます。まず自社の仕事と研究の条件がどれだけ近いかを確認します。

RTO REPORT / LIMITS

日本のRTO方針へそのまま移せない理由

ここで扱った4本の成果研究は、日本企業のRTOを直接評価した研究ではありません。中国の旅行テクノロジー企業、顧客対応職、トルコのコールセンター、インドのデータ入力部門という異なる対象を扱っています。追加した68社の方針研究も、ソフトウェア技術者と支援職を雇用する企業の方針・代表者データが中心で、日本企業全体のRTO実績を測ったものではありません。

したがって、研究から安全に言えるのは、出社日数と成果の関係は仕事と制度設計によって変わり、方針の実態調査からも単一のRTOルールは導けないということです。日本で判断するには、研究の比較に加えて、自社の業務指標、離職、採用、通勤負担、訓練・協働の課題を同じ期間で測る必要があります。

SOURCES / 出典

このページで確認した資料

  1. Bloom, Han & Liang, “Hybrid working from home improves retention without damaging performance”Nature 630, 920–925 (2024)。査読済みRCT。1,612人、週2日在宅と週5日出社、離職・満足度・評価を確認。
  2. Smite et al., “Who “Controls” Where Work Shall Be Done?”Journal of Systems and Software 239 (2026), 112848。査読済みのマルチケース研究。ソフトウェア技術者と支援職を雇用する68社の勤務方針を扱い、方針の実態であって生産性・定着の因果効果ではない。最終掲載情報はSINTEFの出版記録で確認。
  3. Smite et al., 著者公開版(arXiv:2505.15743)査読前の公開版。68社、オフィス中心50%、ハイブリッド許可85%、週3日出社が最多、規則変更28%などの要約と研究設計を確認。最終掲載版とは資料の状態を分けて扱う。
  4. Aksoy et al., “The Value of One Office Day a Month”NBER Working Paper 35331(2026年6月)。Working Paper。248人、完全リモートと月1回の共同出社、コール数・コミュニケーション・離職を確認。
  5. Aksoy et al., “Remote Work, Employee Mix, and Performance”NBER Working Paper 33851(2025年5月)。Working Paper。トルコのコールセンターで完全リモートへの移行、職務構成、初期対面訓練、生産性を確認。
  6. Atkin, Schoar & Shinde, “Working from Home, Worker Sorting and Development”NBER Working Paper 31515(2023年7月)。Working Paper/RCT。インドのデータ入力部門で在宅とオフィスの生産性、学習速度、選好による差を確認。
  7. NBER「Working Papers」NBER Working Paperは査読前に議論とコメントのため流通する資料であることを確認。

研究デザイン、対象、測定指標、資料の状態を分けて読み、相関・観察結果を因果効果へ拡張しないよう整理しています。