RTO ReportRETURN TO OFFICE RESEARCH 特集トップへ ↗

RESEARCH / HYBRID WORK

ハイブリッド勤務の生産性は下がるのか|週2日在宅のRCTを読む

「出社日数を増やせば生産性が上がる」という主張は、出社日数だけでは検証できません。ここでは、週2日在宅と週5日出社を比較したランダム化比較試験を、対象・条件・結果に分けて読みます。

RTO REPORT / ANSWER

結論:このRCTは、週2日在宅が評価を悪化させる証拠を見つけていません。

Bloom、Han、LiangによるNature掲載論文は、Trip.comの大卒従業員1,612人を対象に、週2日在宅・週3日出社のグループと週5日出社のグループを比較したランダム化比較試験です。

結果は、ハイブリッド群で離職率が3分の1下がり、仕事の満足度が上がった一方、業績評価に有意な悪化は確認されませんでした。これは「どの会社でも週2日在宅が最適」と証明したものではなく、特定の条件で出社日数を減らしてもパフォーマンスを損なわない可能性を示す研究です。

対象
1,612人
Trip.comのAirfare・IT部門の大卒従業員
比較
週2日在宅
水曜・金曜に在宅、他の3日は出社

RTO REPORT / DESIGN

まず、何を比較した研究か

実験は2021年8月から2022年1月に行われ、従業員は誕生日が偶数か奇数かによって、ハイブリッド勤務を選べる群と週5日出社の群に割り当てられました。比較の単位は「リモートか出社か」という二択ではなく、同じ会社・同じ時期における週2日の在宅勤務の有無です。

Nature論文の実験条件
項目確認できる内容読み方
研究デザインランダム化比較試験(RCT)観察調査より、群の違いを因果効果として検討しやすい
ハイブリッド群水曜・金曜は在宅、他の3日は出社週2日在宅・週3日出社の制度
対照群週5日出社同じ企業・部門のフル出社条件
対象大卒のAirfare・IT部門従業員1,612人全職種・全企業の代表値ではない

RTO REPORT / FINDINGS

結果:離職と満足度には差が出た

ハイブリッド群の離職率は4.80%、週5日出社群は7.20%で、論文は離職率が約3分の1低下したと報告しています。仕事の満足度もハイブリッド群で高くなりました。非管理職、女性、通勤時間が長い従業員では、離職への効果が異なる可能性も分析されています。

一方、業績評価については、論文が設定した同等性検定の範囲で、ハイブリッド勤務による有意な悪化の証拠は確認されませんでした。昇進についても、全体として差があるという証拠は見つかっていません。

離職率・週5日出社群
7.20%
論文が報告する対照群の平均
離職率・ハイブリッド群
4.80%
論文が報告する処置群の平均
注意:論文の「パフォーマンスに悪影響がない」は、あらゆる成果指標が完全に同じという意味ではありません。評価指標、検定方法、対象期間を含めて読む必要があります。

RTO REPORT / LIMITS

この研究だけでは言えないこと

フルリモートの効果

比較対象は週2日在宅と週5日出社です。毎日リモートの制度や、月1回だけ出社する制度の効果を直接検証した研究ではありません。

日本企業へのそのままの移植

対象は中国の大手旅行テクノロジー企業の大卒従業員です。日本の職種・企業文化・通勤条件に同じ効果が出ると断定できません。

RTO政策全般の優劣

実験は特定の勤務日と部門を扱っています。オンボーディング、管理職、チーム設計、オフィスの使い方まで含むRTO政策全体の評価ではありません。

RTO REPORT / RTO READING

RTO議論での使いどころ

この研究が示すのは、対面の機会を残しながら在宅日を組み込む設計が、少なくともこの条件では離職や満足度と両立しうることです。したがって、「出社日数を増やすほど成果が上がる」という単純な直線を、RCTの結果から導くことはできません。

ただし、研究は出社を不要と結論づけてもいません。どの仕事をどの日に集めるか、チームの協働をどう設計するかは別の問いです。RTOを評価するなら、日数だけでなく、対象者、業務、成果指標、継続期間を揃えて比較する必要があります。

SOURCES / 出典

このページで確認した資料

  1. Bloom, Han & Liang, “Hybrid working from home improves retention without damaging performance”Nature 630, 920–925 (2024)。2024年6月12日公開。ランダム化比較試験の対象、条件、結果、同等性検定を確認。

研究デザイン、対象、測定指標、資料の状態を分けて読み、相関・観察結果を因果効果へ拡張しないよう整理しています。