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RESEARCH / JAPAN WFH 2026

日本のリモートワーク研究2026|コロナ期の生産性とその後の働き方を分けて読む

日本のリモートワーク研究は、「在宅勤務の生産性」を一つの数字で終わらせません。コロナ期の職場との相対生産性を測った研究と、数年後の仕事効率・挑戦意欲・キャリア機会・所得を分析した研究では、時期もアウトカムも違います。

RTO REPORT / ANSWER

結論:日本のWFH研究は、時期・成果・導入の幅を分けると読める

2026年1月のEconomic Analysis and Policy掲載論文は、WFHの導入が義務ではなく任意に選ばれた日本の状況を使い、操作変数法と産業別サンプリングで、コロナ期のWFH経験がその後の働き方へ与えた影響を分析しています。論文は、仕事効率、挑戦的な仕事への意欲、認識されたキャリア機会、所得に正の結果を報告し、転職意向には有意な影響を確認していません。

一方、2022年のMorikawa研究は、コロナ期の通常職場に対する在宅勤務の相対生産性を調べ、平均は約60〜70%だったと報告しています。これは同じ日本の研究でも、危機下の立ち上がり時期と、数年後の仕事上の結果を測った研究を単純に矛盾させないことが重要だという例です。

2026年論文
5つの成果
効率、挑戦、キャリア機会、転職意向、所得を分析
2022年論文
60〜70%
コロナ期の在宅勤務を通常職場と比べた平均相対生産性
日本の制度環境
任意選択
政府がWFHを促したが、全員への一律義務ではなかった文脈

RTO REPORT / COMPARISON

2本の実証研究は、同じ問いを測っていない

研究を読む最初の手順は、結果の方向ではなく、いつ、誰に、何を尋ねたかを揃えることです。2026年論文はポストパンデミックの仕事上の結果、2022年論文はパンデミック期の通常職場に対する相対的な在宅生産性を扱います。

日本のWFH研究の比較
資料対象・設計主な結果読み方の注意
Economic Analysis and Policy(2026)若年・中年労働者のオリジナル調査。操作変数法、産業別サンプリング効率・挑戦意欲・キャリア機会・所得は正、転職意向は有意差なし。頻度を増やす追加効果は限定的無作為化比較試験ではない。操作変数の仮定と対象範囲を確認する
Economic Inquiry(2022)従業員・企業の調査。コロナ期の在宅勤務を通常職場と相対比較平均相対生産性は約60〜70%。個人・企業特性によるばらつきが大きい危機下の自己評価・相対指標で、現在のRTO制度や長期の因果効果を直接測らない
産業ストレス研究(2024)在宅勤務とワーク・ライフ・バランス、生産性に関する既存研究レビュー労働時間、職場支援、仕事と家庭の葛藤、孤独感などを関連要因として整理レビュー論文であり、新しい日本企業のRTOを無作為に比較した結果ではない

RTO REPORT / NEW STUDY

2026年研究:WFHの導入と、頻度を増やすことを分けた

KitamuraとAdachiの論文は、日本ではWFHの利用が企業や労働者の判断で選ばれたことに注目し、内生性への対処として操作変数法を使い、産業別のサンプリングで選択バイアスを抑えようとしています。したがって、単純な「WFHをした人」と「しなかった人」の平均差だけを報告する研究ではありません。

論文は、WFHへ移行すること(extensive margin)には大きな便益がある一方、WFHの頻度をさらに増やすこと(intensive margin)の追加的な便益は限定的だと整理しています。これは、在宅勤務を導入するか、週何日へ増やすかを同じ政策判断として扱わないための重要な区別です。

2026年論文が扱った成果の方向
成果論文の要約RTO判断での扱い
仕事効率WFH経験が有意に改善自己評価を含む成果。職種・測定方法を確認する
挑戦的な仕事への意欲有意に改善意欲の変化であり、実際の業績評価とは別
認識されたキャリア機会有意に改善本人の認識。昇進実績や評価結果とは別
所得有意に改善論文の分析結果。WFHだけの効果と一般化しない
転職意向有意な影響なし定着・離職率そのものを測った結果ではない
操作変数法は、観察データの選択や内生性へ対処するための方法ですが、無作為化比較試験と同一ではありません。因果解釈は、使用した操作変数と推定の仮定に依存します。

RTO REPORT / MORIKAWA

2022年研究:コロナ期の相対生産性は平均60〜70%だった

MorikawaのEconomic Inquiry論文は、コロナ期のWFH生産性を通常の職場と比較し、平均は約60〜70%だったと報告しています。コロナ拡大後に初めてWFHを始めた従業員・企業では低く、高学歴・高賃金の従業員では低下が小さい傾向があり、個人・企業特性による分散も大きいとしています。

この数字は「在宅勤務の現在の生産性が一律60〜70%」という意味ではありません。測定はパンデミック期の相対的な在宅生産性であり、制度の立ち上げ、仕事環境、経験、職種が含まれます。2026年研究のポストパンデミック成果と同じ指標として並べないことが必要です。

測定時期
コロナ期
通常職場を基準に在宅勤務の相対生産性を測定
比較指標
相対生産性
在宅勤務と通常の職場での本人の生産性を比較

RTO REPORT / JAPANESE CONTEXT

日本のレビュー研究:生産性だけでなく支援と家庭の条件を見る

日本産業ストレス学会の2024年レビューは、在宅勤務とワーク・ライフ・バランス、生産性について、既存研究から一貫した結論は出ていないと整理しています。労働時間、職場の支援、仕事と家庭の葛藤に加え、孤独感、飽き、心理的ディタッチメントなどが関連要因として挙げられています。

このレビューは新しいRTO制度の効果を測った実験ではありませんが、研究記事や自社データで何を測るかを広げる役割があります。仕事効率だけでなく、支援、家庭との境界、孤独感、健康、チームとの接点を分けて確認します。

RTO REPORT / HOW TO READ

日本のRTOデータを読む5つの手順

時期を固定する

コロナ期の立ち上げ、ポストパンデミック、2026年現在の制度を同じ期間として比較しません。

成果を固定する

相対生産性、仕事効率、所得、キャリア認識、転職意向、離職率、健康は別のアウトカムです。

導入と頻度を分ける

WFHを導入する効果と、導入後に週あたりの在宅日数を増やす効果は、別の処置として記録します。

選択の仕組みを確認する

任意選択の制度では、職種、企業、家庭、居住地、本人の選好が利用と結果の両方に関わりえます。研究がどう対処したかを確認します。

統計と効果を混ぜない

国土交通省やNIRAの実施率は利用状況を示す統計で、個人や企業の生産性への因果効果を直接示すものではありません。

RTO REPORT / LIMITS

日本の研究からも、固定の週何日までは言えない

ここで扱った日本研究は、個人・企業調査、操作変数法、レビュー論文という異なる方法で、コロナ期とその後の成果を扱っています。特定企業の現在のRTO方針、職種別の最適出社日数、新人・管理職・現場職への一律の効果を直接測ったものではありません。

日本のRTOを判断するには、研究の推定対象と自社の勤務条件が近いかを確認し、導入・頻度・仕事の成果・健康・定着を同じ期間で記録します。既存の全国統計は実施率の地図、研究論文は条件付きの効果推定として役割を分けます。

SOURCES / 出典

このページで確認した資料

  1. Kitamura & Adachi, “Impact of work-from-home during COVID-19 on subsequent work outcomes in Japan”Economic Analysis and Policy 89(2026年1月、348–369頁)。任意選択型WFHの日本で、操作変数法と産業別サンプリングにより、ポストパンデミックの効率・挑戦・キャリア機会・転職意向・所得を分析。
  2. Morikawa, “Work-from-home productivity during the COVID-19 pandemic: Evidence from Japan”Economic Inquiry 60(2)(2022年、508–527頁)。従業員・企業調査から、コロナ期の通常職場に対する在宅勤務の相対生産性と個人・企業特性の差を分析。
  3. 佐々木那津「在宅勤務者のワーク・ライフ・バランスと生産性」産業ストレス研究31(3)(2024年、239–246頁)。在宅勤務、ワーク・ライフ・バランス、生産性に関する既存研究をレビューし、支援・家庭との葛藤・孤独感等を整理。
  4. 国土交通省「テレワーク実施率、安定基調で推移」2026年3月24日公表。25.2%と16.8%の定義を確認。実施率の統計と、研究が推定する生産性・仕事上の成果を分けるために参照。

研究デザイン、対象、測定指標、資料の状態を分けて読み、相関・観察結果を因果効果へ拡張しないよう整理しています。