RTO REPORT / ANSWER
結論:地域差は、職種・タスク・制度・交通を重ねて読む
内閣府経済社会総合研究所の2025年Research Noteは、2021年の社会生活基本調査を使い、テレワークを行った雇用者の割合が三大都市圏で13.1%、地方圏で6.2%だったと示しています。三大都市圏では管理・事務・技術従事者の割合が高く、地方圏では生産従事者の割合が高いという職業構成の違いも確認されています。
ただし、この数字だけで「都市だからテレワークできる」とは言えません。日本の査読論文は、非定型タスクや成果を測りやすい人事管理のもとで、リモート勤務の機会が利用可能になりやすいことを示しています。地域差は、居住地の属性と仕事の設計が重なった結果として読みます。
RTO REPORT / TASKS
職種名だけでなく、仕事のタスクと管理方法を見る
KawaguchiとMotegiのJournal of the Japanese and International Economies掲載論文は、リモート勤務への関与、具体的な仕事のタスク、人事管理(HRM)の特徴を同時に含む日本の調査データを分析しました。リモート勤務の機会は、非定型タスクに従事する人や、従業員の成果を測定できることを前提とするHRMのもとにいる人で利用可能になりやすいと報告しています。
この結果は、職業分類をそのまま「在宅勤務できる職種/できない職種」の判定表にするものではありません。同じ職種名でも、対面機器、現場作業、顧客対応、成果の測定方法、チームの運用が違えば、実際の勤務場所の選択肢も変わりえます。
| 見る単位 | 研究から確認できること | そこから直ちに言えないこと |
|---|---|---|
| 職業・産業構成 | 地域に管理・事務・技術職や生産職がどれだけ含まれるか | 同じ職業なら全国で同じ勤務条件になること |
| 仕事のタスク | 非定型タスクなど、仕事の内容とリモート機会の関係 | 職業名だけで個人の可否を確定できること |
| HRM・成果測定 | 成果を測定できることを前提にした管理実践との関連 | 測定可能なら必ずリモート制度があること |
| 実際の利用 | 制度や機会があっても、本人・会社・家庭・交通条件で利用は変わること | 制度の存在から週あたり日数を推測できること |
RTO REPORT / TIME
大都市圏と地方圏で、生活時間の差も同じではない
ESRI Research Note No.91は、テレワーカーと通勤勤務者の一日の生活時間を、三大都市圏と地方圏に分けて記述しています。三大都市圏ではテレワーカーの通勤時間が34分、通勤勤務者が80分で、家事・育児、余暇、睡眠もテレワーカーの方が長い値でした。地方圏でも通勤時間は21分と57分の差がありますが、家事・育児時間の差は三大都市圏より大きく、地域と家庭の条件を分けて見る必要があります。
これは2021年調査日のクロス集計であり、テレワークが何分を生み出したかを因果的に推定したものではありません。テレワーカーと通勤勤務者の職業構成、性別、ライフステージなどが異なるため、表の差をそのまま制度効果として扱いません。
| 地域・勤務形態 | 仕事 | 家事・育児 | 余暇 | 通勤 | 睡眠 |
|---|---|---|---|---|---|
| 三大都市圏・テレワーカー | 483 | 83 | 202 | 34 | 445 |
| 三大都市圏・通勤勤務者 | 475 | 74 | 191 | 80 | 429 |
| 地方圏・テレワーカー | 458 | 103 | 204 | 21 | 457 |
| 地方圏・通勤勤務者 | 471 | 78 | 205 | 57 | 441 |
RTO REPORT / MUNICIPALITIES
市区町村別の推計は、単純な「都市対地方」ではない
日本地理学会の2022年発表要旨は、2020年度の国土交通省調査から年齢階級別・職業別のテレワーカー率を取り出し、国勢調査の市区町村別の年齢・職業構成を掛け合わせて、市区町村別の雇用型テレワーカー率を推計しました。全国の推計値は16.1%で、調査サンプルの職業構成による見かけの差にも注意を促しています。
結果は大都市圏で高く、非大都市圏で低い傾向を示しつつ、名古屋大都市圏では高まりが目立たず、東北地方には低い地域の連なりが見られると報告しています。同じ地方圏でも産業・職業構成が違うため、都道府県や市区町村の位置だけで利用可能性を決めつけません。
| 項目 | 発表要旨の内容 | 読み方 |
|---|---|---|
| 推計方法 | 職業・年齢別の率と国勢調査の市区町村構成を組み合わせる | 個人を追跡した市区町村別の実測率ではない |
| 全国値 | 2020年の雇用型テレワーカー率を16.1%と推計 | 国交省調査の公表値と母集団・職業構成を確認して比較する |
| 地域パターン | 大都市圏で高く、東北などで低い地域の連なり。名古屋では単純な大都市圏パターンが弱い | 産業・職業構造を通じた地域差の仮説として扱う |
| 地域内差 | 同じ地域にテレワーク可能な仕事と現場型の仕事が共存する可能性 | 地域平均を個人の勤務条件へ直結させない |
RTO REPORT / CITY COMPARISON
2025年の都市比較:利用と通勤手段にも差がある
大畑友紀の2025年「都市計画論文集」掲載研究は、東京都区部、広島市、福山市の有職者を対象に、テレワークの利用、課題、通勤との関係を分析しました。自宅以外でテレワークを行わない「外出従来型」が約8割を占め、企業の導入が半数を超える地域でも、実際の利用は限定的だったと報告しています。
利用状況は職種や雇用形態、交通利便性と関係し、非テレワーク型では自動車通勤が、多様な働き方をする層では公共交通の利用が多いとされています。これは東京一極の制度比較ではなく、都市の規模・交通・職種を組み合わせた観察として読む資料です。
RTO REPORT / HOW TO READ
日本の地域差データを読む5つの手順
地域の定義を固定する
三大都市圏、地方圏、東京都区部、特定市区町村は別の範囲です。全国値と同じ分母として扱いません。
職業構成を先に見る
地域平均の前に、管理・事務・技術職、生産職、販売・サービス職などの構成を確認します。
タスクと制度を分ける
仕事の内容、対面機器、顧客対応、成果測定、会社のHRMは、職業名や居住地とは別の条件です。
制度・機会・利用を分ける
企業が導入した、本人に機会がある、実際に利用した、何日利用したは別の指標です。
通勤と家庭の結果を分ける
通勤時間、家事・育児、余暇、睡眠、仕事時間は別のアウトカムです。相関を生産性や健康の因果効果へ広げません。
RTO REPORT / LIMITS
この研究群から、職種別の最適出社日数までは言えない
ここで扱った資料は、2021年の生活時間、2020年の市区町村別推計、2025年の3地域比較、2021年刊行の日本の職務・HRM分析という異なる時期と設計を含みます。どれも、2026年現在の全企業について職種別の最適出社日数を決める研究ではありません。
RTOを検討するときは、地域平均を個人へ外挿せず、職務タスク、対面が必要な設備・顧客、評価方法、チームの接点、通勤手段、家庭の負担を自社のデータで分けて記録します。研究は、地域差が存在することの確認と、何を追加で測るかの設計に使います。
SOURCES / 出典
このページで確認した資料
- Kawaguchi & Motegi, “Who can work from home? The roles of job tasks and HRM practices”査読済みJournal of the Japanese and International Economies 62(2021年12月、101162)。日本の調査データから、仕事のタスク・HRMとリモート勤務機会の関係を分析。
- 西原照雅・田口湧也「テレワークが雇用者の生活時間に与える影響-大都市圏と地方圏の比較-」内閣府ESRI Research Note No.91(2025年5月)。令和3年社会生活基本調査の個票データを使い、職業構成、実施割合、生活時間を比較。
- 大畑友紀「働き方によるテレワーク導入の弊害・展望及び通勤実態の差異に関する研究」都市計画論文集60(3)(2025年、1559–1566頁)。東京都区部・広島市・福山市の有職者を対象に、利用、職種、交通利便性、通勤手段を分析。
- 「コロナ禍における市区町村別テレワーカー率の推計」日本地理学会発表要旨集2022年春季学術大会。国交省調査と国勢調査の職業・年齢構成を組み合わせた市区町村別の推計。査読済み論文と同じ確度では扱わない。
- 内閣府経済社会総合研究所「柔軟な働き方と企業のデジタル化に関する研究」ESRIの研究プロジェクト一覧。社会生活基本調査の個票データ等を使い、大都市圏・地方圏、男女、家族形態などの差を分析する研究群を確認。
研究デザイン、対象、測定指標、資料の状態を分けて読み、相関・観察結果を因果効果へ拡張しないよう整理しています。